【最新版】改正された遺留分制度!「遺留分侵害額」請求権とは?

質問

私Xは、父Aを亡くした50代の会社員です。

相続人は、私X、弟Yの2人です。
母Bはすでに亡くなっています。

遺産は5000万円相当の不動産と1000万円の現金の合計6000万円相当のものがありました。


父Aの残した遺言は「5000万円相当の不動産と現金のうち800万円は長男である私Xに、残りの現金200万円は次男であるYに分ける」と書かれていました。

私はほとんど遺産をもらえることになり、当然異論はありませんが、弟Yはきっと不満だろうと思います。

なお、5000万円相当の不動産は、父から受け継いだ事業を継続するために売却をするかどうか悩んでいます。

そんな中、弟Yの代理人と名乗る弁護士から「遺留分侵害額請求」として私に1300万円の請求をするという通知が来ました。


このような請求にどう対処したらよいのでしょうか。

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目次

遺留分制度について

(1)遺留分は相続における「最低保障」?

ア 法定相続分について

法定相続分は、例えば、配偶者と子がいる場合は

①配偶者は2分の1
②子は残りの2分の1を均等に分ける

というものです。

今回のケースにおいては、法定相続分通りに分けるとなると

①配偶者はいないので、
②子であるX、Yは3000万円ずつ

ということになります。

 イ ところが今回の遺言の内容は・・・

父である被相続人Aは

「生前に自分の面倒をよく見てくれたXに多くあげたい」

 と思って、本来Xが3000万円になるところを5800万円分にしたのでしょう。

 一方で、父Aは

「何もしてくれなかったYには200万円で十分だ」

 と思ったのかもしれません。

 そうなるとほとんど遺産をもらえないことになってしまったYは黙っていません。

 ウ 遺留分とは?

相続において遺留分は「最低保障」と呼ばれることがあります。

つまり、遺留分という制度は、

遺言などでどんなに少ない割合になってしまった場合でも、「法定相続分の半分」までは請求できるようにしてあげよう、最低限の保障はしてあげよう、という制度なのです。

エ 今回のケースでYはいくら請求できる?

今回のケースではYは、本来、遺留分として、全財産6000万円の法定相続分である3000万円の2分の1、
すなわち「1500万円」を受け取る権利があるのです。

今回は遺言で「200万円」をもらえるとされているので、

Yは不足分の「1300万円」について遺留分侵害額請求ができるということになります。

ここまでは、改正前でも改正後でも同じ話です。

(2)じゃあ一体何が変わったの?

ア 「金銭債権になった」ってどういう意味?

2019年改正で遺留分制度は大きく変わりました。

まずは条文を見てみましょう。

第1046条(遺留分侵害額の請求)

1 遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。

法律的にお話すると、
「法的性質が物権的請求権から債権的請求権(金銭債権)になった」 
という言い方になるのですが、こんな説明ではさっぱりわからないですよね?(笑)

以下、可能な限りわかりやすく説明してみます。

イ 改正前

改正前は、例えば、遺留分を侵害する贈与の対象が「不動産」の場合、
Yが遺留分減殺請求をすると、5000万円相当の不動産は「XとYの共有」となってしまいます。

そうすると、Xがその不動産を売ろうと思っても、
Yが反対すると売れない、という困った状態になってしまいました。

実際、Yは、不動産について「遺留分減殺を原因とする登記」をして売却にストップをかけることができました。

つまり、改正前は、遺言で「不動産はXのもの」と書いてあったとしても、その不動産は、確定的にXのものにならなかった、ということです。

ウ 改正後

しかし、今回の改正では、遺留分の「侵害額」についての請求、つまり、遺留分を侵害された額に見合うだけの金銭を請求することができるだけとなりました。

その結果、遺留分を侵害されても、不動産について「遺留分減殺を原因とする登記」はできず、不動産に対しては何もできなくなりました。

簡単にいうと、

遺言で「不動産はXのもの」と書いてあれば
その不動産は、確定的にXのものにすることができるようになった

ということです。

つまり、「遺言を作れば不動産をあげたい人にあげることができるようになった」ということです。

ですので、ある意味「遺言の破壊力が増大した」といえるでしょう。

(3)今回のXのメリットは?

遺留分は「最低保障の権利」ですので、 
Xは、Yからの1300万円の遺留分侵害額請求を防ぐことはできません。

したがって、Xは1300円をYに支払わなければなりません。

Xのメリットは、不動産をYと共有にされないこと、1300万円を用意するために5000万円相当の不動産を売却することができるという点です。

もちろん、5000万円相当の不動産を売らずに他から1300万円を工面して支払うのでもよいです。

今回、Aさんが800万円の現金をXに残してくれているので
Xがあと500万円用意すれば5000万円相当の不動産を売らずに済みます。

また、Xが5000万円相当の不動産を売るつもりであればお金の工面は簡単にできますね。

改正後(2019年7月1日以降に発生した相続)

遺言で「この人に不動産をあげる」と書けば、遺留分を侵害された人が遺留分侵害額請求をしても、その不動産に自分の権利があると言えなくなりました。

=不動産をあげたい人にあげられるようになった!

※注意点
ただ、「代わりに払うお金」(代償金)を残してあげないと、遺留分を払うことができなくなってしまうので、その点を考えて財産を残しましょう。

遺留分侵害額請求をされた人が知っておきたいポイント

(1)金銭の代わりに不動産をあげた場合、税金がかかります!

通常、不動産を譲渡すると「譲渡税」がかかります。

しかも結構な金額になります。

遺留分の改正に伴い、以下の通達が出されました。

所得税基本通達33-1の6

民法1046条1項による遺留分侵害額に相当する金銭の支払請求があった場合に、(本来の)金銭の支払に代えて、その債務の全部又は一部を履行するために資産の移転があったときは、その履行をした者は、原則として、その履行時にその履行により消滅した債務の額に相当する価額により当該資産を譲渡したこととなる。

ただ、この通達、法律をあまり知らない人が読んでもよくわかりませんよね。

まず、譲渡税がかかる「譲渡」ってなんでしょう?

税務における「譲渡」というのは、有償無償を問わず、所有資産を移転させる一切の行為をいいます。
ですので、通常の売買はもちろん、交換、競売、公売、代物弁済、財産分与、収用、法人に対する現物出資なども含まれます(参照:国税庁HP)。

改正前は、遺留分減殺請求を受けたときに、「お金は払えないから、相続財産のうちの不動産をあげるよ」と言って解決しても、譲渡税がかかることはありませんでした。

これに対して、改正後は、遺留分侵害額請求権が「金銭債権」となるため、相続財産である不動産をあげた場合には、代物弁済(お金を払うかわりに物をあげた)と評価されてしまいます。

例えば、今回のXがYに「5000万円相当の不動産のうち、1300万円相当の部分をあげるからそれで1300万円を払ったことにしてよ」というような場合です。

これは、1300万円分の不動産を代物弁済により「譲渡」した、とされてしまいます

ですので、税務における「譲渡」に該当するため、あげたXには譲渡税がかかる可能性があるのです。

不動産を渡して解決しようと考えている方は、税理士に「譲渡税がいくらかかるのか」について相談しましょう。

(2)お金をすぐに用意できない場合に期限の猶予をしてもらえる!

今回のXはお金を用意できそうですが、用意できない人もたくさんいることと思います。
   
今回、改正によって、期限を延ばしてくれる制度ができました。

具体的には、裁判所に申し立てれば、裁判所が「期限の許与」(≒期限の猶予)を認めてくれるというものです(改正民法1047条5項)。

遺留分侵害額請求をする人が知っておきたいポイント

(1)金銭の代わりに不動産をもらった場合、税金がかかります!

所得税基本通達38-7の2

民法第1046条第1項の規定による遺留分侵害額に相当する金銭の支払請求があった場合において、金銭の支払に代えて、その債務の全部又は一部の履行として資産の移転があったときは、その履行を受けた者は、原則として、その履行があった時においてその履行により消滅した債務の額に相当する価額により当該資産を取得したことになる。

これは、上記でお話した内容と同じような話です。

代物弁済として「譲渡」を受けたことになるので、不動産を「取得」したという扱いになり、不動産取得税がかかる可能性があります。

(2)遺産分割には参加できない

遺留分を侵害された人は侵害された分に見合った金銭を請求することしかできないので遺産分割には参加できないと考えられています。

(3)消滅時効に注意

第1048条(遺留分侵害額請求権の期間の制限)

遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅する。

相続開始の時から10年を経過したときも、同様とする

つまり、遺留分権利者が、

①「相続の開始」と
②「遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったこと」
知った時から「1年間」何もしないでいると、時効で消滅してしまいます。

思いのほか短いので注意しましょう。

なお、改正後は、遺留分侵害額請求権によって発生した金銭債権は、

民法の一般の債権と同じように消滅時効の適用があるので、

5年経過すると消滅時効を援用されてしまいます。

一度請求しておけば安心というものではないのでこの点も気をつけましょう。

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終わりに

いかがでしたか?

遺留分減殺請求については大きな改正がなされましたがまだよく知られていないと思い記事にしました。

特に、不動産を多くあるケースほど影響が大きいので、遺言を作る人も相続する人も今からしっかり知識をつけておくのがよいでしょう。

少しでも参考になれば幸いです。

あらかじめ、今後のトラブルに備え、弁護士保険へのご加入をオススメします‼

この記事を書いた人
松本隆弁護士

弁護士  松本 隆

神奈川県 弁護士会所属
横浜二幸法律事務所
所在地 神奈川県横浜市中区山下町70土居ビル4階
TEL 045-651-5115

労働紛争・離婚問題を中心に、相続・交通事故などの家事事件から少年の事件を含む刑事事件まで幅広く事件を扱う

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