交通事故でPTSDが発症した場合の慰謝料と適切な金額を受け取るための4つのポイント

交通事故という辛い経験をし、その経験が心に深く切り刻まれるとPTSDを発症することがあります。PTSDを発症した場合にも、慰謝料を受け取れる可能性があります。

もっとも、PTSDを発症したからといって、必ず慰謝料を受け取れるわけではありませんのでご注意ください。

この記事では、

  • PTSDと慰謝料
  • PTSDと後遺障害等級、後遺障害等級慰謝料
  • PTSDを発症した場合に後遺障害等級認定を受けるために必要なこと

などについて詳しく解説いたします。

ぜひ最後までご一読いただき、慰謝料請求する際の参考としていただければ幸いです。

弁護士

PTSDは、発症の起点があいまいなことが多くあり、難しい案件となることが少なくありません。 医師や弁護士への早期相談が大切です。

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目次

PTSDについて

まずは、PTSDの意味、PTSDにかかった場合に現れる主な症状についてご説明します。

PTSDの意味

PTSDとは「Posttraumatic Stress Disorder」の頭文字を取って組み合わせたもので、日本語では「心的外傷後ストレス障害」といいます。

心的外傷とは外的要因(体験=DV、虐待、犯罪、いじめ、セクハラ、モラハラ、交通事故、自然災害など)によって心が傷つくことです。

そして、そうした体験をした後に発症する障害がPTSD(心的外傷後ストレス障害)です。

PTSDの症状

フラッシュバック、再体験

過去の交通事故の記憶がよみがえる、再体験する

過覚醒

ストレスによる自律神経乱れから、不眠、動悸、集中力の低下など。

回避行動

原因となった交通事故に関連するもの、交通事故を思い出させるようなものを執拗に避ける、あるいは重要な部分が思い出せなくなるなど。

躁鬱状態

ちょっとしたことで驚く、怒る、涙ぐむ、落ち着きがなくなる。

罪悪感、孤立感、疎外感を感じ、気分が落ち込む。周囲、物事への関心がなくなる。

PTSDの発症率

独立行政法人国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所によると、交通事故による重傷患者のうち約3割の方が交通事故から約1か月後にうつ病やPTSDなどの精神疾患を。

全体の約1割の方がPTSDを発症したとしています。

交通事故によるPTSDと慰謝料

慰謝料とは精神的苦痛に対する賠償金のことをいいます。

そして、PTSDの発症によって精神的苦痛を負い、交通事故とPTSD発症との間に因果関係(交通事故に遭わなかったならばPTSDは発症しなかったという関係)が認められれば、相手方に慰謝料を請求することができます。

慰謝料には

  • 「傷害(入通院)慰謝料」
  • 「後遺障害慰謝料」

の2種類があり、両者とも基本的には個別に受け取るのではなく、たとえば保険会社と示談した場合には示談金(損害賠償金)の一部として受け取ることになります。

傷害(入通院)慰謝料


傷害(入通院)慰謝料とは、交通事故後から症状固定(これ以上治療を継続しても症状の改善が見込めない状態)までの治療(通院)に伴う精神的苦痛に対する賠償金のことをいいます。

通常、交通事故によってPTSDのみ発症するというケースは少なく、むしろ、むち打ち、打撲、骨折など他の怪我を負い、その怪我の治療を継続している間に、PTSDを発症するというケースが多いと思われます。

PTSDの症状が発症した場合は、精神科等を受診し、他の怪我の治療と並行して治療を継続していくべきでしょう。

PTSDの治療が終わるまでには軽微は場合で半年から1年、重篤な場合で2年~3年かかると言われています。

したがって、他の怪我の症状固定が先行する場合も多いと思われますが、PTSDの症状が残る場合は治療を継続し、PTSD独自の症状固定の時期を見極める必要があります。

なお、傷害(入通院)慰謝料や下記の後遺障害慰謝料には

  • 「自賠責基準」
  • 「任意保険基準」
  • 「弁護士(裁判所)基準」

の3つがあります。

基本的に、治療期間(症状固定までの期間)が長ければ長いほど傷害(入通院)慰謝料は高くなります。

弁護士(裁判所)基準による慰謝料はあくまでも目安としてお考えください。

後遺障害慰謝料

後遺障害慰謝料とは、症状固定後に後遺症が残ってしまったために、加害者の自賠責保険会社に後遺障害等級認定の申請を行ったところ、その後遺症が後遺障害として認められた結果、その後遺障害の等級に応じて支払われる慰謝料のことをいいます。

つまり、後遺障害慰謝料を受け取るためには、

☑ 症状固定後に、加害者の自賠責保険会社に対して後遺障害等級認定の申請を行うこと
☑ 後遺障害等級に応じた等級認定のための条件を満たし、後遺障害等級認定を受けること

が必要なのです。

PTSDで認定を受けることができる後遺障害等級、認定を受けるための条件で参考とされるのが、平成15年8月8日付厚生労働省労働基準局から発出された「神経系統の機能又は精神の障害に関する障害等級認定基準について」という労災認定のための通達です。

この通達をまとめると、以下の表のとおりとなります。

後遺障害等級認定を受けるための条件後遺障害慰謝料(弁護士基準)
第9級10号通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、就労可能な職種が相当な程度に制限されるもの690万円
第12級相当通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、多少の障害を残すもの290万円
第14級相当通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、軽微な障害を残すもの110万円

①第9級10号の条件について

具体的には、以下のいずれかの条件に当てはまる場合をいいます。

【ア】就労している場合又は就労の意欲があるものの就労はしていない場合、

(b)仕事・生活に積極性、関心をもつこと

(c)通勤・勤務時間を厳守できること

(d)通常の就労が可能、通常の集中力、持続力をもって業務を遂行できること

(e)他人との意思疎通を図れること

(f)対人関係を構築できること、協調性があること

(g)職場における危険から身を守れること

(h)職務上のストレス、トラブルにも適切に対処できること

のうち、いずれか一つの能力が失われていること

または、 上記7点に

(a)食事、入浴、洗面など身辺事項について適切に行うことができるか

という能力を加えた能力のうち、4つ以上について助言・援助が必要とされる障害を残していること

【イ】就労意欲の低下又は欠落により就労していない場合、

上記(a)について、ときに助言・援助を必要とする程度の障害が残存していること

②第12級相当について

【ア】就労している場合又は就労の意欲があるものの就労はしていない場合、
上記(a)~(h)のうち4つ以上について、ときに助言・援助が必要と判断される障害を残していること

【イ】就労意欲の低下又は欠落により就労していない場合
上記(a)について、適切又は概ねできること

③第14級相当について

上記(a)~(h)のうち一つ以上について、ときに助言・援助が必要と判断される障害を残しているもの

弁護士

交通事故の規模は大小さまざまですが、少なからずショックを受けるのは当たり前といえます。
PTSDが重症化する人は、もともと精神科へ通っている等の事情がある方も多く、それゆえ訴因減額も問題となることが多くあります。

PTSDで後遺障害慰謝料を受け取るために行うこと

前記のとおり、後遺障害等級慰謝料を受け取るには、加害者の自賠責保険会社に対して後遺障害等級認定の申請を行う必要があります。

申請の際には「後遺障害診断書」をはじめとする様々な書類を提出する必要があり、後遺障害診断書は症状固定後に医師に作成してもらいましょう。

後遺障害等級認定の申請を行うのは、PTSDの治療を終えた症状固定後です。

申請後は自賠責損害調査事務所が提出書類等に基づいて必要な調査を行い、調査結果を自賠責保険会社に通知します。

そして、自賠責保険会社が調査結果に基づいて「該当・非該当」、該当の場合の等級を決め、申請者(被害者)に通知します。

申請の方法は「事前認定」と呼ばれる方法と「被害者請求」です。

事前認定とは加害者の任意保険会社が被害者に代わって申請を行ってくれる方法です。

被害者が行うことといえば、医師に後遺障害診断書を作成してもらい、それを加害者の任意保険会社に提出することくらいです。

したがって、ご自身でその他の必要な書類を収集する、申請する手間や時間を省けるというメリットがあります。

他方で、任意保険会社がきちんと必要書類をそろえ、適切な後遺障害等級を獲得してくれるのか手続きが不透明で不安になるというデメリットもあります。

被害者請求は、文字通り、被害者自身で申請を行う方法です。

ご自身の責任と管理の下、手続を進めることができること、任意保険会社との示談前に慰謝料を受け取ることができるのがメリットです。

他方で、必要書類を収集し、書類に記入して提出するなどの手間や時間がかかります。

もっとも、弁護士に依頼すればこの手間や時間を省くことができますし、事前認定よりかは適切な後遺障害等級の獲得に向けて努めてくれます。

PTSDで適切な後遺障害等級認定を受けるためのポイント

最後に、PTSDで適切な後遺障害等級認定を受けるためのポイントについて解説します。

弁護士

PTSDは、実務的にとてもハードルが高い案件となります。

医師から「PTSDですよ」という診断が出たからといって、当然後遺障害も認められる、というわけではありませんのでご注意ください。

交通事故とPTSD発症との因果関係が認められるかどうか

PTSDは、交通事故からある程度期間を置いて発症することが多いです。

そのため、PTSDが交通事故によって発症したものなのか、別の原因で発症したものなのかなど、交通事故とPTSD発症との因果関係を疑われるケースが多いといえるでしょう。

したがって、PTSDを発症した場合に適切な後遺障害等級を獲得するためには、交通事故とPTSD発症との因果関係を立証できるかどうかがポイントとなります。

両者の因果関係を立証するには、PTSDを発症した経緯、発症時期、他に発症に与える原因がなかったことなどを明らかにしていく必要があります。

発症した場合は速やかに病院で受診し、治療を継続する

「PTSDを発症したな」という場合は、速やかに精神科などの病院を受診する必要があります。

受診が遅れれば遅れるほど、交通事故とPTSD発症との因果関係を疑われる原因となってしまいます。

また、PTSDは精神障害の一種、つまり人の心の内面の障害で、かつ、他の精神障害と異なり、脳や神経組織の損傷を原因とする障害ではありませんから、CTやMRI画像などによってPTSDの発症を客観的に証明することは困難です。

したがって、PTSD発症後は速やかに病院を受診した上、いかに医師による適切な治療を継続して受けるのかが後遺障害等級認定を受けるためのポイントとなります。

症状固定のタイミング

後遺障害等級の認定は、医師による適切かつ十分な治療を受けたにもかかわらず、なお後遺症が残ってしまった、と認められる場合(医師により症状固定と判断された後)に受けることができます。

したがって、後遺障害等級認定を受ける前提として、(2)で述べたように、まずは医師による適切な治療を継続的に受けておくことが必要です。

また、症状固定の時期が早すぎると「医師による治療が適切かつ十分でない」と疑われ、遅すぎると「医師の治療によって症状が改善するのではないか(後遺症は残らないのではないか)」となります。

さらに仮に症状が残っているとしても、それは交通事故とは別の原因によるものではないか」と疑われてしまうおそれがあります。

そのため、いつ症状固定とするのか、症状固定のタイミングも適切な後遺障害等級認定を受ける上では重要なポイントです。

弁護士に相談する

交通事故は人の人生に一度あるいかないかの出来事ですし、特にPTSDという大変な症状を患っている場合には、後遺障害等級認定のことまで考えて生活するのは負担が大きいと思われます。

この点、弁護士に相談すれば、適切な後遺障害等級を受けるための治療、検査の受け方についてアドバイスを受けることができますし、症状固定の時期についても法律家の観点から適切に判断してもらえるでしょう。

また、保険会社との交渉も任せることができますから、ご自身で交渉する負担も軽減できます。

こうしたことが、結果的に適切な後遺障害等級の認定を受けることに繋がります。

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まとめ

交通事故でPTSDを発症した場合の慰謝料には、傷害(入通院)慰謝料と後遺障害慰謝料があります。

前者は入通院期間が長ければ長いほど慰謝料が高くなり、後者は認定を受けた等級によって慰謝料が異なります。

また、両者に共通していえることは、弁護士(裁判所)基準によると慰謝料が高くなる傾向にある、ということです。

弁護士に保険会社との交渉を依頼すれば、この弁護士(裁判所)基準を用いて交渉してくれますし、治療や症状固定の時期に関するアドバイスも受けることができるでしょう。

しかし弁護士にとってもPTSDは、とても難易度の高い事案になります。

PTSDを発症した場合は特に、早めに専門の弁護士へご相談されることをお勧めいたします。

また、あらかじめ弁護士保険などで、今後のリスクに備えておくことをおすすめします。

弁護士
黒田弁護士

弁護士 黒田悦男 

大阪弁護士会所属
弁護士法人 茨木太陽 代表
住所:大阪府茨木市双葉町10-1
電話:0120-932-981

事務所として、大阪府茨木市の他、京都市、堺市にて、交通事故被害者側に特化。後遺障害認定分野については、注力分野とし、医学的研鑽も重ねています。

また法人の顧問をはじめ事業上のトラブルにも対応をしています。

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