家族が重大な交通違反や交通事故を起こしたことを知れば、誰もが慌ててしまいます。
特に、自動車の運転を生業としている人が免許停止・免許取り消しを伴うような重大な違反・事故を起こした場合には、失職してしまう原因にもなりかねません。
そのため交通違反・事故が起きた場合などには、違反・事故の処分を逃れることを目的に家族などによる身代わり出頭が行われてしまうケースがないわけではありません。
以下では、身代わり出頭がなされた場合に問われる罪や、身代わり出頭をしてしまった場合の対処方法などの4つの重要ポイントについて解説していきます。
このような身代わり出頭は「家族や生活を守りたい」という気持ちが先走ってしまったことが原因の場合が多いものですが、犯罪に問われうる非常に危険な行為ですので絶対に行わないようにしましょう。
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身代わり出頭とは
身代わり出頭とは、その呼び名のとおり、真犯人・違反者ではない人が、真犯人をかばう目的で、自分で罪を被るために警察に出頭(自首)することをいいます。
特に、交通違反・交通事故における身代わり出頭は、しばしば報道でも取り上げられています。
近年では、某スポーツ選手の駐車違反を球団職員が身代わり出頭したケース、宅配便事業者の運転手がおかした駐車違反について知人が身代わり出頭したケースなどがよく知られています。
身代わり出頭が起きるのはなぜか?
交通違反や交通事故において、身代わり出頭がなされる原因はさまざまですが、主なものとしては以下のような事情を挙げることができます。
- 免許停止・免許取消しなどの行政処分を回避したい
- 交通違反・事故が公になることによって社会的な評価が下がることを回避したい
- 違反・事故を起こした者に罰金を支払えるだけの資力がない
このうち、特に多いのが「免許停止・免許取消し逃れ」を理由とする身代わり出頭です。
タクシー運転手・トラック運転手などの仕事に就いている方の場合には、「運転免許の停止・取消し」が失職などに直結する場合もあるため、「生活を守る」ために家族による身代わり出頭を考えやすい状況にあるといえます。
また、上で紹介した某スポーツ選手のケースは、違反が発覚した場合の選手・球団のイメージ低下を危惧して身代わり出頭が行われた例といえるでしょう。
身代わり出頭は、罪になってしまうのか?
交通違反・交通事故の身代わり出頭は、「生活のために免許停止(取消し)を回避したい」という思いなどから衝動的に行われてしまうことが多く、「身代わり出頭をするとどうなってしまうのか」というところまで気が回らないまま、身代わりの人が出頭してしまうケースも珍しくないといえます。
しかし、身代わり出頭は、以下で解説するように犯罪に問われる可能性のある非常にリスクの高い行為ですので絶対にすべきではありません。
身代わり出頭した人(身代わりを頼まれた人)が問われうる罪
交通違反・事故を起こした人の身代わりを頼まれて出頭した人は、犯人隠避罪(刑法103条)に問われる可能性があります。
(犯人蔵匿等)刑法第103条
罰金以上の刑に当たる罪を犯した者又は拘禁中に逃走した者を蔵匿し、又は隠避させた者は、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
上に示した条文にあるように、犯人隠避に問われるのは、「罰金以上の刑」にあたる交通違反・事故を犯した人の身代わりをした場合で、主なケースとしては以下の違反・事故が該当します。
- 著しい速度超過(いわゆる一発免停となるスピード違反)
- 無免許運転
- 酒酔い運転・麻薬等運転
- 酒気帯び運転
- 人身事故
家族が身代わり出頭した場合の特例
たとえば、トラック運転手の夫の身代わりとして妻が出頭する場合のように、身代わり出頭が行われる場合には、違反・事故を起こした本人の家族が身代わりとなるケースが多いといえます。
このように家族が身代わりとして出頭した場合には、罪に問われた場合でも、以下の条文が定める特例によって刑を免除してもらえる可能性があります。
(親族による犯罪に関する特例) 刑法第105条
前2条の罪については、犯人又は逃走した者の親族がこれらの者の利益のために犯したときは、その刑を免除することができる。
このような特例が認められているのは、「家族を守りたい」という素朴な人間心理に配慮したものといえます。
したがって、突然の交通事故・交通違反に気が動転して、思わず身代わり出頭してしまったというケースであれば、その後の対応如何では、犯罪が成立したとしても起訴を見送ってもらえる(起訴猶予)可能性も十分残されているといえます。
身代わり出頭を依頼した人(違反・事故を起こした人)が問われうる罪
身代わり出頭を依頼した人は、そもそも交通違反・事故をおかした本人となります。
したがって、スピード違反、酒気帯び運転など、自らが犯した違反・事故についての処分を受けることはもちろんのこと、さらに、次のような処分が追加される可能性があります。
犯人隠避の教唆(はんにん いんぴの きょうさ)など
家族や会社の同僚などに自分の違反・交通事故の身代わり出頭を依頼した場合には、犯人隠避の「教唆」となる可能性があります。
教唆(きょうさ)とは、「他人に犯罪をすることをそそのかす」ことですが、その教唆によって実際に犯罪が行われた(実際に身代わりで出頭した)場合に犯罪が成立し、犯人隠避罪と同等の刑罰が(違反・事故の処罰に追加して)科されることになります。
(教唆)刑法第61条
人を教唆して犯罪を実行させた者には、正犯の刑を科する。
2 教唆者を教唆した者についても、前項と同様とする。
また、会社ぐるみで身代わり出頭が行われたようなケースでは、会社側が身代わりに応じるよう圧力をかけているというケースもあるかもしれません。
そのような場合には、強要罪(刑法223条)が成立する可能性があります。
(強要) 刑法第223条
生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、3年以下の懲役に処する。
2 親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者も、前項と同様とする。
3 前2項の罪の未遂は、罰する。
救護義務違反
人身事故が起きた場合の身代わり出頭については、上記の罪のほかにも、交通事故時の救護義務違反や、交通事故発生時の報告義務違反に問われる可能性があります(道路交通法72条)。
また、このような場合には、いわゆる「ひき逃げ」として、重い罪が科される可能性も高いことに注意する必要があります。
万が一、身代わり出頭してしまった時の対処方法
上でも述べたように、身代わり出頭は、「大事な人を守ろう」、「生活(仕事)を守ろう」という気持ちから衝動的に行われることも少なくありません。
万が一、家族が起こした違反や事故について身代わり出頭が行われてしまったという場合には、違反・事故をおこしてしまった本人ができるだけ早く警察に報告・出頭する(自首する)ことが大切です。
警察が身代わり出頭に気づく前に、自ら出頭すれば「自首」が成立する余地があり、身代わり出頭についての刑を軽減してもらえる可能性も高くなるからです。
身代わり出頭の時効について
犯罪行為が行われてから一定期間が経過した場合には、公訴時効が成立する場合があります。
身代わり出頭の場合の公訴時効は、身代わり出頭がなされたときから3年で成立します。
時効期間が3年というと、「もしかしたら逃げ切れるのではないか」と思う人もいるかもしれませんが、実際にはそのようにうまく事が運ぶ可能性は高くないでしょう。
最近では、事故の相手車両にドライブレコーダーが設置されている場合も増えていますし、事故・違反の現場周辺にも多くの監視カメラが設置されている場合があるなど、事件・事故の真犯人を追及できる仕組みもかなり充実してきているからです。
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まとめ
身代わり出頭の多くは、家族や生活を守りたいという気持ちから行われてしまうケースも多いといえます。
しかし、本文でも解説したように、身代わり出頭はれっきとした犯罪行為です。
その意味では、身代わり出頭を依頼するということも、身代わり出頭を引き受けることも、大事な人や生活を守るどころか、より重い罪を負わせてしまう可能性の方が高い非常に危険な行為といえますので、絶対にすべきではありません。
万が一、突然の違反・事故で冷静な判断ができなくなったことで身代わり出頭をしてしまった(させてしまった)という場合には、起訴猶予・刑の軽減の可能性も残すためにも、1日も早く弁護士に相談してみましょう。
あらかじめ弁護士保険や各種の損害保険などに加入して、訴訟リスクに備えておくことをおすすめします。
医療過誤、一般民事(離婚や労働問題)、企業法務を注力分野としています。
敷居が低く親しみやすく、かつ、頼りになる弁護士を目指しております。
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