「離婚」というと、皆さんのイメージでは
- ①離婚届にサインをして役所に提出する「協議離婚」、
- ②離婚調停を申し立てて調停の場で離婚を成立させる「調停離婚」、
- ③裁判で争って離婚をする「判決(裁判)離婚」、
といった3つの種類の離婚を思い浮かべる方が多いように思います。
もちろん、通常はこの3つの区分が一般的なのですが、厳密には「離婚」の種類は6つに分けることができます。
今述べた、①協議離婚、②調停離婚、③判決離婚のほか、
②の調停が成立しなかった場合にそのまま裁判所が独自に判断する「④審判離婚」
③の離婚裁判について、最終的な判決まで行かず、離婚裁判を起こした段階でそのまま離婚する場合の「⑤認諾離婚」
③の離婚裁判でしばらく争ったけれども判決前に和解して離婚する「⑥和解離婚」
以上の6つが存在することになります。
④の審判離婚については、2010年頃までは、利用件数が年間100件にも満たず、あまり重要視されていませんでした。
しかし、最近では徐々に増加傾向にあり、2018年には1096件に至るなど(厚生労働省政策統括官(統計・情報政策、政策評価担当)『人口動態統計』による。)、その急増の様子から、今後も積極的に利用されることが予想されます。
今回は、最近まであまり注目されてこなかったこの「審判離婚」について説明をしていきたいと思います。
記事に入る前に・・・
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「審判離婚」とは?
審判離婚は、簡単に言うと「調停が不成立となりそうな場合に、代わりに裁判所が判断を下す手続き」となります。
具体的には、離婚調停で当事者が話し合いを重ね、それでも折り合いがつかず調停が成立しない場合に、家庭裁判所が相当と認めるときは調停を「不成立として終了」という扱いにせず、家庭裁判所が「離婚するべき」等として、調停に代わる審判をする場合の離婚の形態をいいます。
離婚審判では「離婚するか否か」の判断のほか、調停で争われた「慰謝料」、「親権」、「面会交流」、「養育費」、「財産分与」などの各条件についても、定めることができるとされています。
例えば、調停を申し立てた妻(申立人)と調停を申し立てられた夫(相手方)が調停で話し合いを尽くしてもまとまらなかった場合、裁判所が
- 申立人と相手方は離婚する。
- 申立人と相手方の長男●●の親権者を申立人と定め、申立人において監護養育する。
- 相手方が申立人に対し、長男●●の養育費として長男●●が20歳になるまで月額10万円を支払う。
- 相手方は申立人に対し、本件離婚に伴う慰謝料として金100万円を支払う。
- 相手方は申立人に対し、本件離婚に伴う財産分与として金300万円を支払う。
などといった内容を決定して、「審判」というかたちで判断を下すことになります。
離婚審判の効力 ~これまで利用件数が少なかった理由~
審判離婚がこれまであまり利用されなかった理由にもなりますが、離婚審判の効力は暫定的なものとされています。
具体的には、審判が下されてから2週間以内に当事者の一方が「審判の内容に納得がいかない」として異議申し立てを行うと、審判の効力が失われてしまうとされているのです。
逆に、当事者の双方がいずれも異議申し立てを行わなかった場合は、その審判は確定(動かせないものになること)して、審判離婚成立ということになります。
なぜ利用されにくいかということですが、審判の段階では既に当事者は調停で散々話し合いを行ってきているわけですから、裁判所が判断を下したとしても、当事者双方が「それでいい」と考えることは稀と言えます。
例えば、
- 離婚する
- 慰謝料100万円
- 財産分与300万円
という裁判所の審判が下された場合に、当事者双方が「それでいい」と判断するケースを想像してみましょう。
そうであればそもそも、審判よりも前の段階で①、②、③のような条件で調停が成立していたはずだろう、ということになるわけです。
いわば、調停が成立しなかったからこそ審判まで至っている以上、審判段階になって急に双方が納得する、ということはあまりないのが通常だろうということなのです。
審判離婚が急増している理由
離婚審判は、今述べたようにあまり利用されていない現状がありました。
しかし、それでもここ最近は特に離婚審判に異議を申し立てず、審判離婚成立となるケースが急増しています。
その理由は、離婚調停における感情面や、紛争長期化を避けたい心理が大きく働いているように感じます。
離婚調停においては、特に泥沼化したご夫婦の間では「相手の主張や提示してきた条件をのんであげるなんてイヤ」という感情が大きいように思います。
要は、これから離婚する、というご夫婦は相手に対する憎しみの感情が大きいことも多く、「負ける」とか「主張を受け入れてあげる」という気持ちにはなれないことが多いということです。
ただ逆に言うと、条件面でさほど大きな差がない場合には、「相手の言い分を受け容れることには抵抗があるけれど、裁判所が公平な見地で判断してくれるなら、それには従う」といった感情が往々にしてあると思われます。
裁判所としても調停が不成立となりそうな段階で、双方の主張にさほど大きな乖離がない、ということであれば「裁判所が判断すれば受け容れそうだ」ということで、審判を下す傾向にあるのだと思われます。
また、離婚調停には相当な労力も使うため、調停の終盤には「多少妥協してでも早く解決したい」とか「言い争いを続けることに疲れ切ってしまった」ということも少なくありません。
そのため、「また1年以上裁判で争いを続けるくらいであれば、裁判所の判断にしたがって終わりにしよう」という気持ちになる方も少なからずいらっしゃいます。
このように、「これ以上紛争を長期化しない」という見地から、審判離婚を利用するケースも増えているのだと思います。
審判離婚が確定した後は?
離婚審判が下され、異議申し立てもなされずに無事に離婚審判が成立した場合は、役所にその届出を行う必要があります。
届出には、書類を揃える必要があるとともに、届出の期間も定められているので注意が必要です。
まず、書類ですが審判離婚の場合は
- ①審判調書の謄本、
- ②(離婚審判が確定した旨の)確定証明書、
- ③ 離婚届、
- ④(本籍地以外に提出する場合)戸籍全部事項証明書、が必要となります。
②の確定証明書は「発行してください」と裁判所に申請する必要がありますし、①と②は、「交付してください」との申請も必要なので、この手続きを忘れないようにしてください。
また、審判離婚を役所に届け出る期間については「審判確定後10日以内」とかなりタイトなスケジュールになっています。
うっかりして届出を忘れてしまった、などということがないように気をつけてください。
持参書類は、事前に役所に確認することをお勧めします。
確定した離婚審判には強制執行力がある
離婚審判が確定すると、確定判決と同様の効力(裁判をして勝って確定したのと同じ効力)を有するとされます。
例えば、「慰謝料100万円払え」とか、「財産分与として300万払え」とか、「養育費として月10万円払え」といった金銭給付の条項については、強制執行力があるとされます。
強制執行力があるということは、仮に相手が約束通り支払わない場合には、相手のお給料を差し押さえたり、預金口座を差押えたりすることができる、ということです。
過去には、養育費数年分の1000万円分を一気に差し押さえたというケースもありました。
このように、審判離婚を経ていれば、協議離婚で公正証書を作らない場合に比べて養育費の滞納や未払いといったトラブルを防ぐ効果も期待できるといえます。
離婚審判を有利に進めるために
離婚審判は、あくまで「調停の結果を経て」下されるものですが、一方で、「裁判となった場合にどのような判断となるか」の予行演習的な側面があります。
]すなわち、離婚審判で下された内容は、当事者から出される証拠や主張が変わらない限り、離婚裁判に至ってもおよそ似たような判断が下される可能性が高いということになるわけです。
そして、離婚審判は、当事者の公平を重視して下されるものですので、離婚調停で提出された証拠や主張を総合考慮して「当事者にとってどのような判断が公平か」という見地から決定されます。
その意味では、離婚調停において「可能な限りこちらに有利な証拠を出しておく」とか、「裁判所に斟酌してもらうべき有利な主張をしっかりと主張しておく」ことは、非常に大切ということになります。
離婚調停→離婚審判、の流れで手続きを考えている方は、法的な知識を可能な限り備えておくべきことに変わりはありませんので、一度は弁護士に相談をするなど、是非弁護士を頼ってくださいね。
あらかじめ弁護士保険などで、今後のリスクに備えておくことをおすすめします。
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