交通事故は、自分が車を運転している場合だけでなく、自分が誰かの運転する車に乗っている場合にも起こるものです。
典型例としては、タクシーやバスに乗車中に事故に遭った場合を挙げることができますが、家族や友人知人、会社の同僚等が運転する車に同乗しているときに事故に遭ってしまうこともあるかと思います。
これらの場合には、被害者としても誰に損害賠償を請求してよいか迷ってしまうことも多いのではないかと思われます。
そこで、この記事では、同乗者として交通事故被害に遭ってしまった場合の損害賠償請求について、その請求の相手方や請求時に注意すべき点などについて解説しました。
ぜひ参考にしてください。
記事に入る前に・・・
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同乗者に生じた損害は、誰に賠償請求できるのか?
まずは、同乗者として交通事故に遭い被害が生じたときの、損害賠償の請求先は誰かという点から確認していきたいと思います。
交通事故による損害を被ったときには、その加害行為を行った相手に損害賠償を請求することができます。
交通事故における加害者(損害賠償の相手方)は、その交通事故について「過失(故意)のある運転手」ということになります。
基本的な事故の類型と、それぞれのケースでの損害賠償の相手方については、下の表のようにまとめることができるでしょう。
交通事故の態様 | 損害賠償を請求できる相手 |
---|---|
単独事故 | 同乗車両の運転手 |
もらい事故(相手車両の過失が100%) | 相手車両の運転手 |
当事者の双方に過失のある事故 | 双方の運転手 |
加害事故(同乗車両の過失が100%) | 同乗車両の運転手 |
たとえば、同乗車両が信号待ちで停車中に後方から追突されたケースのような、いわゆるもらい事故の場合には、通常であれば、相手方の過失が100%となるので、損害賠償は相手方の運転手にのみ請求できます。
(過失のない(加害者ではない)同乗車両の運転手には損害賠償を請求できません)
加害者に賠償を求めることのできる範囲
被害者が同乗者であった場合でも、損害賠償を求めることのできる範囲は、通常の交通事故の場合と変わりがありません。
たとえば、同乗中の車両の事故によってケガをした場合であれば、以下の内容について(実際に発生した損害に基づいて)加害者に補償を求めることができます。
- ケガの治療のための入通院費用
- 入通院に伴う慰謝料(いわゆる傷害慰謝料)
- ケガによって生じた休業分の補償(休業損害)
- 後遺障害が残ってしまった場合の後遺障害慰謝料・逸失利益
双方の運転手に請求できる場合【押さえるべきポイント】
交通事故の多くは、運転手の双方に何かしらの過失(前方不注意など)があるケースであるといえます。
したがって、車両に同乗していた人がケガをしてしまった場合には、どちらの運転手に対しても損害賠償を請求することができます。
このようなケースでは、複数の加害者(運転手)によって、1つの交通事故が引き起こされたと考えて、「共同不法行為(民法719条)」が適用されるからです。
以下では、双方の運転手に損害賠償を請求できる場合の重要ポイントについて確認していきます。
請求の優先順位はなし どちらに請求するかは自由に選択可能
共同不法行為の加害者は被害者に対して不真正連帯債務を負うものとされています。
不真正連帯債務というのは、文字どおり連帯債務の一種ですから、損害のすべてについてそれぞれの加害者は原則として常に全部の責任を負うものとされています。
(被害者への賠償が完全に終わらない限り責任のなくならない債務と理解しておけばよいでしょう)
したがって、双方の運転手に過失がある場合には、その過失割合の程度に関係なく、どちらの運転手(加害者)に損害賠償を請求するかは、被害者が自由に決めることができます。
つまり、過失割合が9:1(相手車両が1割)というケースであっても、相手方に損害賠償を請求することができるというわけです。
どちらの運転手にも損害の全額を請求可能
また、片方の当事者に請求する際には、「損害賠償のすべて」を請求することができます。
この点も、共同不法行為者の損害賠償義務が不真正連帯債務であることが根拠となっています。
たとえば、上の例(相手の車両に1割の過失がある交通事故)の場合に100万円の損害が発生しているときには、相手方の運転手には、1割の10万円ではなく100万円全額の賠償を求めることができるというわけです。
加害者の双方から損害賠償を両取りすることはできない
加害車両の双方に過失がある交通事故では、同乗者は双方の運転手のそれぞれに対して損害賠償を請求することが可能ですが、このことは、「受け取れる損害賠償額が2倍になる(損害賠償を両取りできる)」というわけではない点に注意しておく必要があります。
加害者のどちらかが被害者からの請求に応じて、損害の全額を賠償したときには、他方の加害者の損害賠償義務は消滅することになるからです。
「実際に発生した損害分しか賠償してもらえない」ということは当たり前のことですが、双方に満額請求できるというと誤解される人もいるようです。
しかしながら、双方に満額を請求できる(同時に請求可能な上限額が増える)ということは、実務的には大きな意義があるといえます。
なぜなら、自賠責保険への請求上限額が2倍になることは、被害者にとって「スムーズに賠償してもらえる」可能性が高くなることが多いといえるからです。
たとえば、上のケース(同乗者がケガをして200万円の損害が生じた場合)が一方の運転手の過失のみで生じた交通事故による場合であれば、傷害事故の上限額が120万円である自賠責保険だけでは損害をカバーすることができません。
しかし、同じ事故であっても、双方の運転手に過失があるケースであれば、自賠責保険の上限額は、120万円×2の240万円となるので、自賠責保険だけで損害をカバーできる可能性が高くなるというわけです。
どちらに請求すべきかを決める際のポイント
双方の運転手に損害賠償を請求できるケースでは、どちらに損害賠償を請求しようか悩んでしまうこともあるかもしれません。
多くのケースは、(人間関係などを配慮して)相手方に請求することを考えるかもしれませんが、「相手方から請求する」ことが必ずしも最善の選択というわけではないことには注意しておくべきといえます。
実際のケースで、「どちらに損害賠償を請求するか」ということついては、次のポイントを意識するとよいでしょう。
- 加害者が任意保険に加入しているかどうか
- 示談交渉をスムーズに行えるかどうか(すぐに賠償してもらえるか)
- 加害者の資力状況(特に、無保険者がいる場合)
たとえば、交通事故の相手方(自分が乗っていない車両の運転手)が無保険(任意保険未加入)であった場合には、相手方との交渉が難航する可能性も高いといえます。
そもそも、加害者が自動車保険に加入している場合であれば、損害賠償の支払いは保険会社が行うわけですから、同乗させてもらった車両の運転手に賠償を求めても、加害者の財布に直接の負担をかけるわけではありません。
また、全額を賠償した加害者は、それぞれの過失割合に応じて、他方の加害者に対して求償権を行使できるので、実際に損害賠償を支払った側だけが最終的な負担をするというわけでもありません。
同乗させてくれた運転手に損害賠償請求するときの注意点
単独事故の場合や、自車側の加害事故のケースでは、同乗させてもらった運転手に損害賠償を請求することになります。
双方に過失がある事故でも、相手方と交渉する負担・リスクを考えたときには「自車側から賠償してもらう」ことを考えるケースも多いと思います。
同乗させてくれた運転手に損害賠償を請求する際には、次の2つの点に注意しておく必要があります。
「運転手が家族」のケース
他人の車に同乗するケースとしては「家族の運転する車」に同乗することが最も多いといえるでしょう。
しかし、このケースでは、同乗者の家族の損害については、任意保険(対人賠償責任保険)を利用できないことに注意しておく必要があります。
一般的な自動車保険の約款では、被害者が、被保険者の父母、配偶者、子の場合は免責の対象となっているからです。
例えば、娘と孫を同乗させている際に事故を起こしてしまった、という時、娘は自動車保険の約款上免責となりますが、孫には自動車保険を適用することができる、ということになります。
※任意保険の約款は、「任意保険会社の保険金支払義務が免責になる」ということを定めているだけなので、「家族の加害者に損害賠償を請求できない」というわけではありません。
なお、家族が同乗者であるときに保険会社が免責となるのは、「対人賠償責任保険」の部分のみです。
したがって、運転手が「人身傷害保険特約」、「搭乗者傷害保険」に加入していたときにはこれらの特約による補償をうけることは可能です(ただし、これらの特約を付帯していないケースも少なくありません)。
また、自賠責保険は、家族が被害者の場合であっても適用可能ですから、損害が自賠責保険の範囲内で済んだ場合には、家族である運転手の保険のみで損害をカバーできる場合もあります。
【参考判例】 最高裁判所昭和47年5月30日判決
好意(無償)で同乗させてもらった場合
かつては、無償で同乗させてもらった(好意同乗)場合には、損害額が減額されることがありました。
同乗させてもらうことによって運転手に発生しているコスト分は賠償額から差し引いた方が公平であると考えることもできるからです。
しかし、このような好意同乗減額は、自動車が非常に高価な財産で、保有・維持・運行に多額のコストがかかることを前提にした考え方です。
いまの社会では、この好意同乗減額が用いられていた時代(昭和40~50年代)と比べれば、自動車の財産的な価値も運行などにかかるコストも相対的に小さくなっていると考えられます。
したがって、現在の実務では、無償で同乗させてもらっていた場合であっても、運転手に相当の負担が生じていた特段の事情がない限りは、賠償額が減額されることはないと考えられています。
被害者(同乗者)の事情で賠償額が減額されてしまう場合
交通事故の被害は、事故発生に原因のある程度に応じて負担をすることが公平といえます。
したがって、直接運転していない同乗者であっても、交通事故の発生原因に関わっているときには、その程度に応じて損害賠償額が減額されることになります(過失相殺)。
たとえば、次のようなケースでは、賠償額が相当程度減額される可能性があるので注意する必要があるでしょう。
- 同乗者が運転手の運転を直接的に妨害した場合(運転手の腕をつかんだなど)
- 同乗者が運転手にしつこく話しかけるなどして、間接的に妨害したといえる場合
- いわゆる「ハコ乗り」や定員オーバーなどの危険な方法で乗車していた場合
- 運転手が飲酒していることを知って同乗した場合
- 運転手の運転技術が未熟であることを知っていた場合
- 運転手が無免許者であることを知っていた場合(期限切れの場合を含みます)
- 大幅な速度超過・蛇行運転・あおり運転・信号無視などを同乗者が黙認したり促したりしていた場合
これらのケースでは、同乗者以外にも交通事故の被害者がいた場合には、同乗者に損害賠償義務が発生する可能性が高いといえます。
また、運転手の飲酒・無免許を知っていたにもかかわらず同乗していた場合には、同乗者自身が罪に問われる(刑事罰を科される)可能性が高いことにも注意しておく必要があるでしょう。
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まとめ
他人の車に同乗していた場合でも、交通事故によって損害(ケガなど)が発生したときには、きちんと賠償してもらえる権利があります。
自分は運転していない、タダで乗せてもらっていただけだからと諦める必要はありませんし、そのことによって賠償額が減額されることも基本的にはありません。
しかし、任意保険が適用されるケース(自賠責保険では賠償しきれないケース)では、通常とは異なる対応を検討する必要が生じることもあるかもしれませんし、「自車側には請求しづらい」と気兼ねして相手方と交渉したために示談がこじれるリスクを抱える可能性もあるといえます。
不正確な知識のまま対応してしまえば、「被害者なのにさらに損をしてしまう」という気の毒な状況になってしまう可能性も高いといえますので、不安なこと、わからないことがあるときには、早めに弁護士に相談することが大切といえます。
最近では、自動車保険に弁護士費用特約を付帯する人が増えているといわれます。
一般的な弁護士費用特約は、同乗者にも適用することが可能です。
また、単独型の弁護士保険に加入していれば、低コストで、同乗事故のケース以外のさまざまなケースで弁護士の無料相談を利用することができるのでさらに安心です。
弁護士 黒田悦男
大阪弁護士会所属
弁護士法人 茨木太陽 代表
住所:大阪府茨木市双葉町10-1
電話:0120-932-981
事務所として、大阪府茨木市の他、京都市、堺市にて、交通事故被害者側に特化。後遺障害認定分野については、注力分野とし、医学的研鑽も重ねています。
また法人の顧問をはじめ事業上のトラブルにも対応をしています。
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