現代社会においては、家族の形も多様化しており、法的な「婚姻」という形をとらずに事実上婚姻と同様の関係(内縁関係)を結ぶことも少なくありません。
内縁関係は、お互いに自由で苗字も変える必要がないなどのメリットがある反面、相続などでは法律婚のパートナーと同じ法的保護が受けられないといった重大なデメリットもあります。
本記事では、内縁関係の相続をテーマに、内縁のパートナー(以下「内縁の妻」として記載していきます)に財産を残す6つの方法を解説していきます。
記事に入る前に・・・
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内縁とは
そもそも「内縁」とは、どのような関係を意味するのでしょうか。
ただ一緒に住んでいるだけでは「内縁」とみなされないことに留意が必要です。
内縁とは
「内縁」は、一般的には、婚姻届を提出せずに事実上夫婦として生活を営んでいるカップルのことをいいます。
しかし、法的に「内縁関係」として認められるためには、
- 婚姻意思があること
- 社会的・習俗的に夫婦と認められる実質を有すること
という2つの要件を満たす必要があります。
簡単にいえば、夫婦として生活していこうという意思に加えて、実質的に夫婦同様の生活を送っていることが必要とされるということです。
そのため、単に「好きだから同棲している」というだけでは、法的な意味での内縁関係ということはできません。
内縁の効果
内縁関係として認められる場合には、当事者間においては同居、協力・扶助義務、貞操義務が認められるなど、一定の範囲で法律婚と同様の効果が発生します。
そのため、内縁関係にあるパートナーに対して、不貞行為に対する慰謝料の請求や扶養義務に基づく生活費の請求などは可能です。
しかし、内縁当事者間では法律婚と同様の効果が及ばないことがあります。
相続権の欠如
内縁の配偶者には法定相続権が認められていません。そのため、遺言書がない場合には、内縁の配偶者は相続人となることができません。
嫡出推定の欠如
内縁の子どもは嫡出子と推定されず、父親が認知しない限り法律上の父子関係が認められません。
内縁の妻と相続権
自分とパートナーは「内縁関係である」と言えそうですが、相続は不可能なのでしょうか?
まずは内縁関係の細かい状況を確認してみましょう。
内縁の妻の相続権
内縁の妻には、相続権は認められていません。
民法では、亡くなった方(被相続人)の一定の範囲の親族を相続人とすることを規定しており、法律婚の配偶者は常に法定相続人となります。
しかし、内縁の妻は、法定相続人には含まれません。
そのため内縁の夫が亡くなった場合でも、内縁の妻は夫の財産を「相続」という形では引き継ぐことができません。
なお、相続法改正によって新設された配偶者居住権(※1)についても、法律婚の配偶者のみが対象とされており、内縁の妻には制度は適用されません。
※1 配偶者居住権とは、残された配偶者が被相続人の所有する建物(夫婦で共有する建物も含む)に居住していた場合、一定の要件を充たすとき、被相続人が亡くなった後も配偶者が賃料の負担なくその建物に住み続けることができる権利をいう。
内縁の妻との間に子どもがいた場合
内縁関係にある当事者の間に子どもがいた場合には、その子どもは「認知」されていれば相続人になります。
認知があれば、内縁の夫との間に法律上の父子関係が生じるため、「被相続人の子」として法定相続人になるためです。
なお、「認知」は、内縁の夫が生前に「認知届」を提出して行う方法だけでなく、「遺言認知」や「死後認知」でも可能です。
内縁の妻との間に子どもがいない場合
遺言書がなければ、法定相続人が法定相続分に応じて相続することになります。
法定相続人になるのは、(法律婚の配偶者がいれば)配偶者とともに、次の順位の親族が相続人になります。
第1順位
子ども・孫などの直系卑属第2順位
親などの直系尊属第3順位
兄弟姉妹したがって、法律婚を選択せずに事実婚を生涯続けた当事者に子どもがいない場合には、親または兄弟が相続人となることが少なくないといえるでしょう。
内縁関係の妻に財産を残す6つの方法
内縁の妻へ自分の財産を残す手段はありませんか?
相続という形では財産を残すことはできませんが、次のような方法によって財産を譲り渡せる可能性はあります。
遺言書を作成して遺贈する
内縁の妻に財産を残す方法として、最もなじみのある方法ともいえるのは「遺贈」です。
遺贈とは、遺言者が「遺言書」に意思表示することによって他人に財産を譲り渡す行為ですが、相続人に限らず内縁の妻も遺贈を受ける受遺者になることができます。
そのため、内縁の妻に財産を遺贈する旨の遺言書を作成しておくことによって、財産を譲り渡すことはできます。
もっとも、遺言者に兄弟姉妹以外の法定相続人がいる場合には、遺留分にも考慮した内容で遺贈する必要があります。
遺留分については、「内縁の妻に財産を残すときの注意点」で解説していきます。
生前贈与を行う
内縁の妻に財産を残したい場合には、生前贈与による方法も計画的に活用するとよいでしょう。
ただし、高額の財産を贈与すると、受贈者に税率の高い贈与税の負担が課されます。
そのため、1年にもらった財産の合計額が110万円以下であれば贈与税がかからないという暦年課税の仕組みを活用し、計画的に内縁の妻に財産を譲り渡すなどの工夫も必要になるでしょう。
生命保険の受取人にする
生命保険の死亡受取人に内縁の妻を指定することができるのであれば、財産を残すことができる一つの方法になります。
しかし、一般的には、生命保険の死亡保険金の受取人は、後日のトラブルや制度の悪用を防ぐためにも、配偶者および祖父母・父母・兄弟姉妹・子・孫などの血族の範囲に限られています。
そのため、内縁の妻を受取人にする生命保険の申し込みをしても、保険会社に断られたり、戸籍上の配偶者がおらず内縁の関係性を証明できる場合のみ引き受けが認められたりといった対応がなされる可能性はあります。
内縁の妻が特別縁故者の申立てをする
遺言書を作成せずに内縁関係の夫が亡くなった場合でも、内縁の夫に法定相続人が誰もいなければ、内縁の妻が「特別縁故者」として家庭裁判所に認めてもらい財産を譲り受けられる可能性があります。
「特別縁故者」とは、相続人ではないものの、亡くなった方との特別に密接な関係性をもつ者をいい、内縁の妻は該当すると認められる可能性があります。
ただし、「特別縁故者」として認めてもらい財産を取得するためには、家庭裁判所に対して一定の手続きを行って相続人がいないことを確定させるなどのいくつかの手順を踏む必要があります。
主張できる権利を確認しておく
内縁関係にある夫が亡くなれば、内縁の妻は夫の財産を相続できず、法定相続人が財産を相続します。
しかし、たとえば、内縁の妻が、内縁の夫と一緒に協力して事業を営み、財産を増やしてきたという事情がある場合には、財産については2人の実質的共有財産として内縁の妻の持分が認められる可能性があります。
また、内縁の夫名義で借りている家に2人で住んでいたような場合には、内縁の妻は、亡くなった内縁の夫の賃借権を承継・援用して退去せずに住み続けられる可能性があります(※2)。
このように、「財産についてどのような権利を主張できるか」を確認しておくことも大切です。
※2 判例上、内縁配偶者(妻)は、賃借人である被相続人(夫)が死亡した場合には、相続人の賃借権を援用して賃貸人に対し当該家屋に居住する権利を主張することができる(相続人とともに共同賃借人となるものではない)。
法律婚・養子縁組をする
内縁の妻に財産をのこすためには、婚姻届を提出して法律上の夫婦となり、配偶者として相続させることも一つの選択肢といえます。
また、婚姻という形でなくても、養子縁組をしておき、養子として相続させることも選択肢として考えられます。
内縁の妻に財産を残すときの注意点
上記の方法で財産を残す際に何か注意しておくことはありますか?
内縁の妻に財産を残すときの5つの注意点を確認しておきましょう。
遺留分の考慮
遺留分権利者には、遺留分を侵害する遺贈を受けた受遺者などに対して遺留分相当額の金銭を請求できる権利(遺留分侵害額請求権)が認められています。
そのため、法律上の配偶者がいる場合に内縁の妻に財産を全部遺贈するような遺言を残せば、内縁の妻は法律上の配偶者から遺留分侵害額請求を受け、トラブルになるリスクがあります。
したがって、内縁の妻に遺贈をする場合には、遺留分を考慮する内容で遺言書を作成することが大切です。
なお、遺留分権利者全体に保障されている遺留分は、直系尊属だけが相続人の場合は相続財産の3分の1、それ以外の場合は相続財産の2分の1とされています。
贈与の証明
生前贈与で内縁の妻に財産を残す場合には、贈与契約書などを作成しておくことによって様々なリスクを減らすことができます。
贈与の契約は口頭でも成立しますが、「言った」「言わない」のトラブルになったり、安易な贈与の撤回につながったりする可能性があるので、書面にしておくことが大切です。
また、贈与の成立には贈与者と受贈者の双方の意思が必要になるので、後日の税務調査で問題にならないように契約書などで証明できるようにしておく必要があります。
相続税の加算
内縁の妻は法定相続人にはならないため相続することはできませんが、財産の遺贈を受けることはできます。
遺贈で財産を受け取った場合、他の相続人の相続分と合わせて相続税の申告書を提出する必要があり、相続税が課税されます。
ただし、内縁の妻の相続税を算出するにあたっては、配偶者の税額軽減を受けることはできず、相続人でないため基礎控除もありません。
また内縁の妻の相続税は、法律婚の配偶者などより2割加算された金額になるため、負担が重くなることは注意点といえます。
各種控除が適用されないこと
法律婚の配偶者の場合、被相続人から相続や遺贈によって取得した遺産額が1億6000万円または法定相続分相当額までのどちらか多い金額までは、相続税はかからないという税額軽減があります。
相続税の負担の軽減に非常に効果の大きな制度ですが、内縁の妻は適用を受けられません。
また、障害者控除なども適用されないため、相続税の負担に注意が必要です。
小規模宅地等の特例が認められない
小規模宅地等の特例は、一定の条件を満たした居住・事業用の宅地の評価額を減額する制度です。
法律上の配偶者が居住用宅地を取得した場合には、評価額は80パーセント減額されますが、内縁の妻にはこの特例は認められていません。
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まとめ
本記事では、内縁関係の相続をテーマに、内縁関係の妻や夫に財産を残す6つの方法を解説しました。
どのような形で財産を残すことがよいのかは、それぞれのケースによって異なります。
早くから考えて計画的に進めていき、弁護士などの専門家に相談することがおすすめです。
弁護士 谷井秀夫
第一東京弁護士会
弁護士法人谷井綜合法律事務所
東京都 中央区新富2-5-10 新富ビル3階
03-6228-3340
【主な取扱事件】
企業法務 不動産・建築 債権回収 労働問題 相続
【経歴】
京都大学法学部卒業
石油元売会社に10年勤務
退社後、弁護士登録
2023年1月弁護士法人谷井綜合法律事務所開設
豊富な経験と高度な専門知識をもとに、複数の有効な選択肢を提案し、
現場主義・迅速対応で顧客の皆様の信頼にお応えしていきます。
民間企業での勤務経験を活かし、事業に寄り添う法律アドバイスをしています。
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