愛犬(ペット)が交通事故! 損害賠償についての3つの重要ポイント

交通事故はさまざまな場面で発生します。

たとえば、愛犬と散歩中に自動車が歩道に突っ込んできてしまった場合には、飼い主だけでなくペットも一緒に轢かれてしまうこともあり得ます。

犬猫のようなペットは人間よりも弱い生き物ですから、このような事故で飼い主は軽症で済んだとしても、ペットは重篤の後遺症が残ってしまったり死んでしまったり、なんてこともあるでしょう。

飼い主にとってペットは家族同然の存在という場合も多いといえますから、大事な家族を傷つけられた・失った等、精神的な苦痛を加害者に償ってもらいたいと思う被害者も多いといえます。

そこで今回は、ペットが交通事故被害に遭った場合の損害賠償の考え方について特に重要なポイントをまとめてみました。

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目次

法律における基本的な考え方

飼い主にとってペットは、「家族と同じ存在」である場合も多いといえますが、法律の上では、ペットは「物」という取り扱いになってしまいます。

たとえば、他人のペットを黙って連れ去った場合であっても、「誘拐罪」にはならず、「窃盗罪」が問われることになります。

さらに「悪意でペットを殺した」というケースでも、殺人罪に問われるということもありません。(ただし、器物損壊罪や動物虐待罪が問われる可能性はあります)。

また、交通事故であれば、運転手の過失による事故となりますので、飼い主も死傷させてしまったために人身事故となる場合を除いては、加害車両の運転手の罪を問うこともできません。

大事なペットの命を奪われたら加害者を許せないと感じることもあると思いますが、法律ではどうしようもないことです。

したがって、交通事故でペットが死んでしまったという場合でも、飼い主に被害がなければ、物や自動車などが壊れた場合と同様に物損事故として取り扱われることになります。

なお、物損事故では加害者の自賠責保険を利用することもできませんので、相手車両が任意保険(対物賠償保険)に無加入だった場合には、資力の面で不安が生じる場合もあります。

物損事故における損害賠償

物損事故の場合には、「壊してしまった物を元に戻すための費用が損害賠償の金額となる」というのが原則です。

被害車両を修理するための費用がその典型例です。

したがって、交通事故によってペットがケガをしてしまった場合であれば、その治療費については加害者側に請求することができますし、死んでしまった場合にはペットの価格に準じた財産的損害の補填(金銭による弁償)だけでなく、ペットの埋葬費用を請求することもできます。

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物損事故の損害賠償は、壊れた物の価値(時価額)が上限になるのが原則とされています

時価50万円の物が事故で壊れた場合であれば、損害賠償の上限額も50万円というわけです。

そのため、修理代が車両の時価総額を超えるような物損事故の場合には、賠償額をめぐって示談がこじれてしまうこともあります。

評価額の低い車の全損事故では、損害賠償を受け取っても買い換え費用にも満たず被害者にとっては不満の残る結果になりやすいからです。

ペットの場合の考え方

ペットが事故に遭った場合には、購入額(や時価)を超える治療費などを認めてもらえるケースも増えているといえます。

法律上は物であったとしても、生命である以上車が壊れた場合と同様に考えることは必ずしも適当とはいえないからです。

実際の裁判例にも、8歳のラブラドールレトリバー(購入価格65000円)が交通事故によって重症を負い、後肢麻痺などの後遺症が残ったケースにおいて、購入価格を超える治療費、入院料、車椅子作成料の賠償と飼い主夫婦への慰謝料の支払いを認めた事例があります(名古屋高等裁判所平成20年9月30日判決交民41巻5号1186頁)。

ペットを亡くした場合、相手に慰謝料を請求できる?

法律における基本的な考え方としては、物損事故の場合には原則として慰謝料は発生しません。

物が壊れたという場合には、その物を修繕したり代替物を購入させたりすることによって、損害を完全に回復することができる(損害が発生する前の状況に戻せる)と考えられているからです。

例外的に物損による慰謝料請求が認められる場合

例外的に、修繕や代替品の提供では損害を完全に回復できない物損被害もあります。

たとえば、世の中に同じものが2つとして存在しない物を壊してしまった場合がそのようなケースの典型例といえます。

この場合、物損であってもその物の所有者に「元に戻すことはできない」という点について一定の精神的苦痛が発生すると考えることができます。

また、交通事故の場合には、結果としては物損で終わったけれども「生命の危機を強く感じるほどの恐怖があった」というケースもあるでしょう。

たとえば、自動車が猛スピードで住宅に突入したようなケースでは、「精神的な平穏を強く害された(命の危機を感じた)」ことについて精神的な苦痛が生じたと考えることもできます。

実際の裁判でも、このようなケースで慰謝料を認めています。

(大阪地方裁判所平成元年4月14日判決交民22巻2号476頁)

飼い主から加害者への慰謝料請求を認めた事例の紹介

交通事故によってペットが死んでしまった場合や重篤な後遺症が残ってしまったというケースでは、通常の物損事故とは違い飼い主からの慰謝料請求が認められる可能性が高いといえます。

飼い主にとってペットは、「ただの物ではなく家族同然の存在である」ということを裁判においてもきちんと踏まえてくれるケースが増えてきているからです。

つまりは、「代わりの効かない存在」を失ったことによって法律上評価すべき精神的な苦痛が生じていると判断してもらえる余地がある、というわけです。

実際の裁判例としては、上で紹介したラブラドールレトリバーの事案のほかにも、次の事件がよく知られています。

大阪地方裁判所判決(平成18年3月22日判例時報1938号97頁)

① 交通事故によって生後1歳6ヶ月の愛犬のパピヨンが死んでしまい、シーズーが座骨骨折を負ったケース 。


・当該パピヨンが血統書付きのセラピー犬であったこと
・パピヨンの市場価格がペットタイプで15万円以上、ショータイプで35万円以上すること

平均寿命が16年長であることなどを理由に、財産的な損害・火葬費用・治療費(合計約25万円)のほかに、飼い主の慰謝料10万円を認めた。

東京高等裁判所(平成16年2月26日交民37巻1号1頁)

② 交通事故で死んでしまった飼い犬が、長年家族同然に飼われてきたことを理由に、飼い主の慰謝料5万円を認めた。

慰謝料請求する際のポイント

交通事故でペットが被害に遭ったことを理由に慰謝料を請求する場合には、「証拠」を揃えることが重要となります。

近年では、交通事故でペットが被害に遭ったケースにおいて飼い主の慰謝料を認める事例が増えてきているとはいえ、「物損で慰謝料は発生しない」という考えが原則であることは変わりがないからです。

つまり、「飼い主がペットをかわいがる」というのは当然のことでもあることを考えれば、慰謝料請求を認めてもらうには、「そのペットに対して特別の愛情があった」ということを示すことのできる証拠が必要となります。

ただし、「家族同然の存在であるペットが死傷したこと」に対して、慰謝料が認められた場合であっても人間が死傷した場合と同様の金額が認められるというわけではありません。

また、人身事故の場合のようにペットの慰謝料について客観的な相場額があるわけでもありません。

ペットが死傷した場合の慰謝料額は、ペットの購入額(評価額)、事故の悲惨さ、ペットの年齢、飼っている年数といった複数の要素の総合判断によって慰謝料額が決められるといえます。

したがって、裁判所に提出しても通用するだけの十分な証拠を揃えるということは、納得できる慰謝料額を受け取るためにも重要となってきます。

ペットの飼い主側に過失がある場合

実際の交通事故では、加害者側だけでなく被害者側にも一定の過失がある場合も少なくありません。

たとえば、車両同士の交通事故でも、交差点での出合い頭衝突のような場合には、過失割合が5:5となってしまうこともあります。

このように、交通事故の当事者の双方に過失がある場合には、過失に応じてそれぞれに発生した損害を分担して賠償し合うのが原則となります(過失相殺といいます)。

ペットの交通事故における被害者(飼い主)側の過失の例

ペットを屋外に連れだしている人などには、そのペットの種類及び性質に従い相当の注意をもってペットを管理する責任があるとされます。

たとえば、次のような場合には、ペットの種類に応じた安全配慮を怠っていると考えられます。

  • ペットにリードをつけずに散歩させている場合
  • 飼い主の落ち度でリードを手放してしまった場合
  • 大型犬のリードを幼い子供にもたせていた場合
  • 歩道から車道にはみ出して散歩させていた場合
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人の交通事故の場合であっても、シートベルトやチャイルドシートの不装着が原因で被害が拡大した場合(シートベルトをしていれば死亡せずにすんだ蓋然性が高いような場合)には、相応の過失相殺がなされることになります。

車に同乗させていたペットが交通事故で死傷した場合もこれと同様に考えられます。

加害者側から損害賠償請求されてしまう場合

「リードのついていない飼い犬が、散歩中に車道に飛び出して轢かれてしまった」というようなケースでは、ペットの飼い主側の過失の方が大きくなってしまう場合もあり得ます。

このようなときには、飼い主が加害者となってしまい、交通事故の相手方(車両の運転手)から逆に損害賠償を請求される可能性があります。

上でも触れたように、動物の占有者には、動物の種類及び性質に従って相応の注意義務があり、それを怠ったことが原因で動物が他人に損害を与えたときには賠償する義務があるからです。

また、被害額の大きさ・過失の程度によっては、ペットの飼い主側の過失が少ない場合でも相手方に損害賠償を支払わなければならない場合もあります。

例)飼い主Aの犬が突然車道に飛び出し、Bの運転する車に跳ねられてしまったというケース

過失割合がA:B が3:7、 損害額はAが10万円、Bが40万円だったという場合

AがBから受け取れる損害賠償は7万円(10万円の7割)であるのに対し、
AがBに支払うべき損害賠償額は12万円(40万円の3割)となってしまいます。

双方に過失があるケースでは、「過失の多い方だけが損害賠償を支払う」ということにならない場合もあるので注意しましょう。

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まとめ

交通事故でペットが被害に遭ってしまった場合には、被害に応じた損害賠償を加害者に請求することができます。

最近では、家族同然の存在であるペットを失った被害者の感情をふまえた裁判例も増えていますが、すべてのケースで当然に慰謝料請求が認められるというわけではありません。

また、ペットが被害にあった場合の賠償額は、人の場合と比べて低額に抑えられてしまうことも多く、示談や訴訟を弁護士に依頼しても費用倒れになってしまうケースも多いといえますので注意が必要です。

あらかじめ弁護士保険や各種の損害保険などに加入して、訴訟リスクに備えておくことをおすすめします。

弁護士
黒田弁護士

弁護士 黒田悦男 

大阪弁護士会所属
弁護士法人 茨木太陽 代表
住所:大阪府茨木市双葉町10-1
電話:0120-932-981

事務所として、大阪府茨木市の他、京都市、堺市にて、交通事故被害者側に特化。後遺障害認定分野については、注力分野とし、医学的研鑽も重ねています。

また法人の顧問をはじめ事業上のトラブルにも対応をしています。

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