【危険運転による交通事故】ドライバーなら押さえておきたい知識

近年では、あおり運転や高速道路の逆走といった「危険運転」による交通事故や嫌がらせ被害などの報道を目にするケースが増えました。

これらの危険運転が原因で交通事故が起きた場合には、重傷事故や死亡事故となってしまう可能性も非常に高く、いつ巻き込まれてしまうか不安に感じている人も多いのではないかと思います。

その他方で、危険運転という言葉がこれだけ広く認知されたことで、交通事故の相手方から「あなたの運転は危険運転である」とクレームを付けられることもあるかもしれません。

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目次

危険運転とはどのような運転のことか

まずは、危険運転とはどのような運転のことを指すのかということについて確認しておきましょう。

法律の上では、次のような運転に該当するものを危険運転とよんでいます(自動車運転致傷行為処罰法2条)。

① アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為

② その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為

③ その進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為

④ 人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為

⑤ 赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為

⑥ 通行禁止道路(道路標識等により車両の通行が禁止されている道路又はその部分)を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為

⑦ 車の通行を妨害する目的で、走行中の車(重大な交通の危険が生じることとなる速度で走行中のものに限る。)の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転する行為

⑧ 高速自動車国道又は自動車専用道路において、自動車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転することにより、走行中の自動車に停止又は徐行(自動車が直ちに停止することができるような速度で進行することをいう。)をさせる行為

法律の定義というと難しく感じてしまいがちですが、基本的には、一般の人が「危ない」、「こんな運転をしていたら重大事故の原因となる」と感じるような運転のほとんどは、法律においても危険運転とされていると理解してよいでしょう

あおり運転に対応するための令和2年改正

実は、危険運転についての定めは、もともとは刑法でなされていたものでした。

しかし、飲酒運転などを理由とする重大事故の増加が社会問題化したことなどをうけて、自動車運転致傷行為処罰法(平成25年公布、翌年5月より施行)という新たな法律を定め、そこに規定を設けることにしたものです。

また、近年問題となっているあおり運転も危険運転として明確に定めることを目的に、上記⑦⑧を新たに危険運転とすることを定めた改正法が今年(令和2年)の7月に施行されたばかりです。

危険運転をした場合の罰則

危険運転をした場合には、刑事上、行政上の罰が科せられることになります。

危険運転をした場合の刑事罰

上記で示した危険運転を行った場合には、すべて刑事罰の対象となります。

科される刑事罰は、危険運転によって生じた被害の程度によって次のように決められています。

・人を負傷させてしまった場合:懲役15年以下
・人を死亡させてしまった場合:有期懲役1年以上

近年大きな話題となった東名高速道路でのあおり運転による交通事故は、上で触れた法改正のきっかけになった事件といえますが、この事件の刑事裁判では、危険運転を犯した運転手に対して検察は懲役23年を求刑しています。

なお、3年を超える懲役刑が科される場合には、執行猶予処分が付けられることもありませんので、危険運転は刑務所に収監されてしまうリスクの高い運転ということになります。

危険運転をした場合の行政罰(免許取消し)

交通違反を犯したときには、その違反の程度に応じて、行政上(運転免許について)のペナルティーをうけることになります。

たとえば、上記の①の場合(アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為)であれば、体内のアルコール量も大量となっている場合がほとんどでしょうから25点の違反点数(免許取消し)となります。

他の危険運転の場合についても、免許停止どころか、1回の危険運転で即免許取消しとなる場合がほとんどです。

危険運転による交通事故での損害賠償

危険運転で交通事故を起こした場合、上記の「刑事上」「行政上」の2つの罰を負いますが、もう1つドライバーに追う責任があります。

交通事故の加害者が負うべき3つ目の責任は「民事上の責任である被害者への損害賠償」です。

交通事故の原因が危険運転にある場合には、刑事責任・行政責任の場合と同様に、民事上の責任も重くなります。

過失割合

日本の法律では、交通事故で損害が発生した場合には、当事者の双方で損害を公平に負担することが原則とされています。

実際の交通事故では、当事者の双方に何かしらの過失(前方不注意や速度違反)があることも多く、当該事故に対する過失の割合に応じて、相手方の損害を賠償することになっています。

しかし、交通事故の当事者の一方が危険運転をしていた場合には、交通事故に対する過失が通常よりも加重されて計算されてしまいます。

危険運転に該当するような運転をしている場合には、その運転手に重過失があると評価できるからです。

たとえば、過失割合が、加害者7割、被害者3割というような事故であっても、加害者側に危険運転があれば、過失10:0として扱い損害賠償を計算することもあり得ます。

慰謝料が増額される可能性

交通事故で他人をケガさせたり、死亡させてしまった場合には、治療費などの実際に発生した被害者の経済的損失だけでなく、交通事故被害者に生じた精神的な負担(被害)についても賠償しなければなりません

この被害者の心の損害に対する賠償が慰謝料です。

通常の交通事故における慰謝料は、被害(ケガ)の程度に応じて金額が算出されることになっています。

ケガの程度が重くなるほど被害者の精神的な負担も大きくなると考えるのが最も妥当といえるからです。

しかし、危険運転による交通事故の場合には、通常の交通事故の場合よりも慰謝料が増額されることもありうるといえます。

危険運転それ自体によって被害者が「命の恐怖を感じた」という場合には、通常の交通事故よりも精神的な負担も大きくなるといえるからです。

危険運転のトラブルに巻き込まれないために

危険運転による被害は、自分の運転によってもある程度の予防が可能といえます。

走行中の自動車同士の関わり方が危険運転のきっかけとなることも少なくないからです。

危険運転被害を予防するためにできること

危険運転による被害を予防するためには、「自車がターゲットにされない」ということが何よりも重要です。

その意味では、日頃から次のような点に気を配って運転することは、危険運転のターゲットにされないためにも非常に効果的といえます。

早めの車線変更(相手に進路を譲る)

高速道路の追い越し車線は、特に煽り運転の被害に遭いやすい場所です。

自車よりも速度の速い車が後ろからやってきた場合には、早めに進路変更をして相手に進路を譲ってしまうことで、煽り運転のターゲットになる可能性を大幅に減らすことができます。

また、必要のないときには、「できるだけ走行車線を走行する」ことを意識することも、煽り運転を予防する方法として有効です。

急な割り込みをしない

他車線への急な進路変更や、渋滞中などの無理な割り込みは、相手のドライバーを不必要に刺激してしまう可能性も高いといえます。

進路変更などは、普段から余裕をもって行い、渋滞時などの侵入に際していわゆるサンキューハザードなどを上手に用いることも危険運転被害に遭う確率を下げる有効な手段といえます。

車間距離を保つ

車間距離を保つことは、安全な走行を確保する上での基本といえます。また、周囲の車との間隔を保てていれば、危険な運転をする車を回避するのも容易になる場合が多いでしょう。

それとは逆に、車間距離を保てていない場合には、ちょっとしたブレーキで後方車両の運転手の不興を買うこともあるでしょうし、逆にこちらが前方車両を煽っていると勘違いされてしまうおそれもあります。

不要なクラクションを鳴らさない

煽り運転は、相手の運転手の一時の怒りのような感情が原因となるケースもあります。

ちょっとしたことでイラっとしてしまいクラクションを鳴らしたことが、煽り運転による嫌がらせに発展するというケースは珍しいことではありません。

特に、煽り運転に対してクラクションで警告を促す行為は、相手を逆上させてしまい、逆に煽り運転がエスカレートしてしまう場合が多いといえるので注意すべきでしょう。

ドライブレコーダーを設置する

ドライブレコーダーは、危険運転対策として、非常に有効です。

万が一、交通事故になった場合には、ドライブレコーダーに記録された映像が相手の危険運転を明らかにする有力な証拠となる可能性が高いからです。

そのため、「ドライブレコーダーが設置された自動車」であるというだけで、煽り運転・危険運転のターゲットになる可能性が減るともいえます。

最近では、比較的安価なドライブレコーダーも増えていますし、「ドライブレコーダー設置」というステッカーを車両のリアガラスなどに貼り付けるだけでも一定の抑止効果を期待できるでしょう。

危険運転の車両にターゲットにされてしまったら

万が一、危険運転の車から標的にされてしまった場合には、落ち着いて対応することが何よりも大切です。

慌ててしまったことで、運転そのものがおろそかになってしまえば、それが原因で事故になってしまう可能性も高くなってしまいます。

危険運転の標的にされた場合の対応や注意点としては次のようにまとめることができるでしょう。

速やかに110番する

走行中に幅寄せや急ブレーキ(急停車)、運転手からの暴言や窓や車両を叩くなどの、身の危険を感じる運転・行為をうけた場合には、できるだけ速やかに110番通報するようにしましょう。

同乗者がいる場合には、その方に110番通報してもらうのが最も安全ですが、同乗者がいない場合には、運転手自身が110番通報することもできます。

危険運転の標的にされた場合のような緊急時であれば、運転中に携帯電話を使用しても罰が科されるようなこともありません。

安全な場所へ避難(停車)し相手をやりすごす

煽り運転の標的になってしまった場合には、安全な場所に車を停車させ相手をやり過ごしてしまうこともひとつの方法です。

また、相手が執拗に煽り運転を行ってくる場合には、人目のある安全の場所(コンビニエンス・ガソリンスタンド・SA・PAなど)に避難した方がよい場合も多いといえます。

絶対にすべきではないこと

煽り運転のターゲットにされた場合でも、次のような対応はトラブルや危険をさらに大きくしてしまう可能性が高いのですべきではありません。

・相手の車両に仕返し(煽り行為)をする
・クラクションで警告する
・急ブレーキ・急停車
・安全ではない場所で車外に出る
・窓をあけてしまう

交通事故の相手から危険運転を指摘された場合

交通事故が起きた場合には、その相手方から「あなたの運転は危険運転である」と指摘されてしまうこともあるかもしれません。

こちらとしては、そのような意図がなかったとしても、相手には危険な急ブレーキや煽り運転(車間距離の詰めすぎ)であると感じられてしまうこともあり得るからです。

このような場合には、示談交渉も難航することが予想されます。

危険運転をされたと感じている相手方は示談でも簡単に譲歩してくれない可能性が高いためです。

このような場合には、ドライブレコーダーの映像などの客観的な証拠などに基づいて丁寧に事故の状況を再現し、相手方に説明していくなどの対応が必要になってきます。

このような交渉をスムーズに進めていくためには、自動車保険の担当者ではなく、弁護士に示談を依頼した方がよい場合が多いといえます。

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まとめ

煽り運転などの危険運転による被害は、日頃から丁寧な運転を心がけることで回避できるケースも少なくありません。

自動車を運転していると、他人の運転にいらだちを覚えることは少なくないといえますが「お互い様(自分もそういう運転になっているかもしれない)」と冷静に対応することは、危険運転の標的にされるリスクを減らすことにもつながるといえます。

万が一、危険運転の被害にあった場合や、交通事故の相手方から身に覚えのない危険運転を指摘されたときには、できるだけ早い段階で弁護士に相談すると、トラブルの激化を回避できるだけでなく、納得のいく示談結果を得られる場合が多いといえます。

あらかじめ弁護士保険や各種の損害保険などに加入して、訴訟リスクに備えておくことをおすすめします。

弁護士
西村雄大弁護士

西村 雄大 弁護士


大阪弁護士会所属 
梅田パートナーズ法律事務所 代表弁護士
住所 大阪市北区西天満4-6-4 堂島野村ビル2階
電話 0120-074-013

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