交通事故の被害に遭った方の中には、病院(整形外科)以外に整骨院への通院を希望される方もいるでしょう。
しかし、自己判断で整骨院に通院してしまうと、あとで加害者側に治療費や慰謝料を請求できない可能性があります。
「整骨院へ通院したい!」と思った時は、まず本記事で紹介する4つの重要事項を知っていただき、最終的には医師や弁護士に相談しながら治療を進めていくことが大切です。
記事に入る前に・・・
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1. 交通事故における損害と賠償請求の基本
整骨院へ通院した場合、被害者が加害者側(加害者の保険会社あるいは加害者)に請求できる損害費目としては、
- 施術に要した「治療費(施術費)」
- 通院するために要した「交通費」
- 精神的苦痛に対する「傷害(通院)慰謝料」
があります。
これらは「傷害分」といわれており、症状固定(※1)となった以降は基本的に請求することができない損害費目です。
他方、症状固定後に請求することができる損害費目としては
- 後遺障害逸失利益
- 後遺障害慰謝料
があります。この2つは「傷害分」に対して「後遺障害分」といいます。
いずれの場合も、賠償金を受け取るためには「交通事故被害に遭ったからこそ発生した」という「交通事故と損害との因果関係」が認められることが必要です。
※1 症状固定とは 症状固定とは、これ以上怪我の治療を継続しても、症状の改善が見込めなくなった状態をいいます。基本的に症状固定までの治療費は受け取ることができます。 |
2. 整骨院への通院と治療費
交通事故の実務では、整骨院での施術(電気療養、温熱療養、マッサージなど)は医学上一般に承認された治療方法とは認められていません。
したがって、施術によって発生した費用は交通事故と因果関係のある費用(損害)として認められず、原則として加害者側に支払いを請求することはできません。
ただし、次の条件を満たす場合は、支払いを請求できる可能性があります。
医師の指示がある場合
医師の指示がある場合には、医師による治療の一環といえるからです。
なお、ここでいう「医師の指示」とは、医師が整骨院に通院することを積極的に勧めた場合(積極的承諾の場合)に限らず、患者が医師に整骨院に通うことを希望する旨を申し出て、医師が特段反対の意思を表明しなかった場合(消極的承諾・黙認の場合等)も含まれます。
医師が患者に整骨院へ通院するよう積極的に勧めることは現実的に考え難いですから、医師の指示があると認められる大半のケースは後者の場合です。
医師の指示がない場合は、次の条件を満たすこと
医師の指示がない場合は、医師の指示があったと認められるのと同等の、以下の諸条件を満たす必要があります。
1. 施術を受ける必要性があること
治療のほかに施術を受ける必要があったなど
2. 施術の合理性があること
必要な部位に関して施術が行われたなど
3. 施術の相当性があること
怪我の程度に比して施術内容・期間・費用などが相当だったなど
4. 施術の有効性
施術によって具体的な効果が認められたなど
もっとも、1から4の条件が満たされた場合でも全額の支払いを受けることができるのは稀で、減額されることが多いです。
3. 整骨院への通院と傷害慰謝料
治療費とは別に、傷害慰謝料についても相手方に請求できる可能性があります。
(1)傷害慰謝料の計算方法
傷害慰謝料は以下の方法により算出されます。
①自賠責基準による場合
自賠責基準とは、慰謝料算定の際に活用される3つの基準(自賠責基準、任意保険基準、裁判所基準)のうちの1つです。
「自賠責」とあるように、慰謝料は3つの基準のうちで最も低く設定されています。
自賠責基準による傷害慰謝料の算出方法は、
4200円×通院日数 です。
通院日数は、
・通院期間
・実通院日数×2 のいずれか少ない日とされます。
たとえば、通院期間が90日、実通院日数が16日とすると後者(実通院日数32日=16×2)の方が少ないので、この日数が通院日数とされます。
したがって、自賠責基準による傷害慰謝料は134,400円(=4200円×32日)となります。
②裁判所(弁護士)基準による場合
裁判所基準も算定基準の1つですが、自賠責基準よりも慰謝料額が高く設定されています。
裁判所基準は過去の裁判例をベースとしており、日弁連交通事故センター東京支部が発行する「民事交通事故訴訟 損害賠償算定基準(通称、赤本)」に掲載されています。
赤本に掲載されている裁判所基準は、重症の場合の別表Ⅰと軽傷・むちうちの場合の別表Ⅱがあります。
以下では参考として別表Ⅱ(抜粋)を掲載します。
この別表Ⅱによると、通院期間90日(3月)の傷害慰謝料は53万円です。自賠責基準よりも3倍以上高いことが分かります。
(2)傷害慰謝料の支払い条件と増額のコツ
以上のとおり、通院日数(通院期間)は傷害慰謝料算定のためのベースとなります。
したがって、傷害慰謝料の支払い請求をするためにも、整骨院への通院が「交通事故治療のための通院」すなわち交通事故と因果関係のある通院と認められることが必要です。
そして、そのためには、治療費のところでご紹介した条件(医師の指示・指示がない場合は諸条件)を満たすことが前提となります。
また、通院慰謝料増額のためには、裁判所基準で交渉した方がよいことがお分かりいただけるかと思います。
もっとも、裁判所基準は、交通事故の知識・経験を有しているからこそはじめて活用できるものです。
裁判所基準での交渉を希望される方は、早めに交通事故の取り扱いに慣れた弁護士に相談しましょう。(自分で交渉しても、裁判所基準が認められるケースは、皆無に等しいです。)
4. 整骨院への通院を検討する際に知っておくべき点
最後に、整骨院への通院を検討する際に知っておくべき点をご紹介します。
病院と整骨院を並行して通院する(整骨院のみへの通院はダメ)
交通事故に遭ったら、まず早めに病院を受診し、医師の診察・治療を受けましょう。
病院を受診せずに整骨院にのみ通院したり、交通事故から病院受診までに期間が空いていたり、などという場合は交通事故と怪我との因果関係が疑われ、病院での治療はもちろん、のちに通院する整骨院での施術にかかった費用や傷害慰謝料を受け取れなくなる可能性があります。
また、症状固定後、後遺症が残存する場合で後遺障害逸失利益や後遺障害慰謝料を請求する場合には、後遺障害等級認定を受けなければなりません。
そして認定を受けるには医師に「後遺障害診断書」を作成してもらう必要があります。
ところが、「病院を受診していない」「受診はしたがその後は整骨院のみで病院へ通院していない」などという状態だと、医師に後遺障害診断書を作成してもらえず、上記の請求をすることができません。
病院への通院頻度はケースバイケースで医師の判断にもよりますが、少なくとも月に1度は通院した方がよいでしょう。
医師、保険会社へ事前に申し入れておく
繰り返しになりますが、加害者に整骨院での施術費用も支払ってもらいたい場合は、少なくとも医師へ「整骨院に通院したい」「通院した」ということを申し入れておくことが大切です。
この場合、「どうぞ行ってください」と整骨院への通院を積極的に勧める医師は少ないと思われます。
これは医師の立場に立ってみるとわかることで、医師は第一に自身の手で患者の怪我を治したいと考えているでしょうし、治せるプライド・自信を持っているからです。
他方で、どういう治療法を選択するかは患者の自由ですし、医師もそのことは理解しています。
そのような事情の中、申し入れがあったからといって積極的に反対する医師も少ないでしょう。
患者としては、日頃の通院時から医師にご自身の症状や希望をはっきりと伝え、信頼関係を築いておくことが大切です。
また、保険会社に施術費用を支払ってもらえるのか事前に確認しておくことも、整骨院へ通院するかしないか判断する上では必要でしょう。
もし、保険会社が消極的な態度であれば、医師に整骨院宛の「診療情報提供書」を作成してもらい、これを保険会社に提示すると話がスムーズに運びます。
整体院、カイロプラティックへの通院は賠償の対象外
被害者の中には整骨院以外にも、
- 接骨院
- 鍼灸院
- 指圧、マッサージ院
- 整体院
- カイロプラティック
などへの通院を希望される方もいると思います。
①から⑤はいずれも医療類似行為と呼ばれています。
この中で、①②③は法律(①は柔道整復師法、②③はあん摩マッサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律)に基づく医療類似行為であることに対し、④⑤は法律に基づかない医療類似行為に過ぎません。
つまり、①から③は国家免許を有する方でなければ行えない国家公認の医療類似行為であるのに対して、④、⑤は技術さえあれば誰でも行うことができる非公認の医療類似行為なのです。
したがって、①から③での施術については必要かつ相当な範囲の治療費を支払ってもらえるほか、傷害慰謝料(通院した日数を傷害慰謝料の通院日数にカウントされる)を受け取れる可能性があります。
他方、④⑤については治療費、傷害慰謝料を支払ってもらえないので注意が必要です。
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おわりに
交通事故被害者がどういう治療法を選択するかは自由です。
しかし、「あとで治療費を支払ってもらえると思っていたのに支払ってもらえなかった」という事態とならないよう、治療、施術を受ける前に一度、医師や弁護士に相談することをお勧めいたします。
是非、今後の備えとして「弁護士保険」へのご加入をオススメします!
弁護士 黒田悦男
大阪弁護士会所属
弁護士法人 茨木太陽 代表
住所:大阪府茨木市双葉町10-1
電話:0120-932-981
事務所として、大阪府茨木市の他、京都市、堺市にて、交通事故被害者側に特化。後遺障害認定分野については、注力分野とし、医学的研鑽も重ねています。
また法人の顧問をはじめ事業上のトラブルにも対応をしています。
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2019年よりミカタ少額短期保険(株)が運営する法律メディアサイトです!
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